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新潟地方裁判所長岡支部 昭和41年(日記)3416号 決定 1966年12月24日

申立人 樋口敬八

被申立人 株式会社泉屋商店

主文

別紙第一目録記載の不動産について被申立人の占有を解き申立人の委任する執行吏にその保管を命ずる。執行吏は現状を変更しないことを条件として被申立人にその使用を許さなければならない。但し、この場合においては、執行吏はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

被申立人は別紙第一目録記載の不動産に建物を建築したりその他現状を変更する行為をしてはならない。

理由

一、本件申立の要旨と疎明

本件申立の要旨は、申立人は先に当裁判所昭和四一年(ヨ)第七八号不動産仮差押事件において被申立人所有の別紙第一目録記載の不動産(以下本件不動産という。)と申立外石坂勝三所有の別紙第二目録記載の不動産に対する仮差押決定を得てそれらの仮差押をしたところ、その後被申立人は本件不動産上に重量鉄骨を使用して建物を建築しようとしており、もしこの建築がなされると本件不動産の価格が著しく低下するのでその監守保存のため必要な処分を求めるというのである。

被申立人が本件不動産上に重量鉄骨を使用して建物を建築しようとしていることは棚村重信、樋口平治郎作成の昭和四一年一二月二三日付上申書によつて認めることができ、又、右建物が建築された場合、本件不動産が建物とは別個に売られる場合の価格が著しく低下することは公知の事実である。

二、監守保全処分の根拠について

不動産の仮差押決定の効力として裁判所が仮差押債権者の申立により当該不動産の監守及び保存のため必要な処分をなしうることについては明文の定めがない。しかし仮差押は金銭債権の責任財産の経済的価値の保全を目的とするものであるから、その経済的価値を減少させる債務者の法律的処分のみならず事実上の処分も差止める効力があり、その効力の実現の方法として裁判所が不動産の監守及び保存のため必要な処分をなしうると解さなければ、債務者が事実上の処分によつて仮差押の目的の不動産の経済的価値を低下させることによつて、容易に仮差押の意味を減少させ、場合によつては全く無意味にすることもできることになり明らかに不合理である。

同じ目的を別の仮処分によつて達すべきだという考え方もあるが、その場合仮処分の被保全権利は債権者が仮差押をしたことにより取得した仮差押の目的物に対する妨害排除請求権となり、結局は仮差押の効力に他ならず、そのような迂遠な方法をとるのが正当であると思われない。

そして船舶(民事訴訟法第七二一条、第七四八条)、自動車、建設機械(自動車及び建設機械強制執行規則第一六条)、航空機(航空機強制執行規則第一〇条)については監守及び保存のため必要な処分をなしうることにつき明文の定めがある。いずれも強制執行法上不動産の手続を準用され、かつ、仮差押決定の執行後も債務者が目的物の占有使用を続け、その経済的価値を毀損しやすいことにおいて不動産の仮差押と共通している。

以上述べたところから明らかなように監守保存のための処分は不動産の仮差押に不可欠のものであり、かつ強制執行法上多くの点で不動産と性質を同じくする船舶、自動車、建設機械、航空機などに明文の規定のあるところから、不動産の仮差押においても裁判所は債権者の申立によりそれをなし得ると考える。

三、監守、保存の必要性について

本件において申立人の被保全権利は四〇〇万円である。それに対して、仮差押の目的物の固定資産税評価額が別紙第一、第二各目録に記載のとおりであることは長岡市長上村清五郎作成の昭和四一年七月二八日付、土地証明書によつて認めることができる。長岡市において宅地の時価が固定資産税評価額とほぼ同一であり、農地の時価が固定資産税評価額の約一・八倍であることは公知の事実であるから、右各不動産の時価の総額は一〇六万九六〇〇円となり被保全権利の債権額より遙かに少ない。

このように仮差押の目的物の時価が被保全権利の債権額より遙かに少い本件においては、被申立人が本件土地上に建物を建築するのは土地の通常の利用方法であるが、その結果建物と別個に売られる場合の本件土地の価格は著しく低下し仮差押の目的を著しく損うことになるから、それを阻止するため監守、保存の必要性があると考える。なお申立人はこの建物に対し別に仮差押をすることはできるが、新たに保証金を必要とするし、又、申立人の仮差押前に被申立人がこの建物について賃貸、抵当権設定その他の法律上の処分をすれば、本件土地の価格が建物の建築によつて下落した分を建物の仮差押によつて申立人が保全できるとは限らない。従つて、建物の建築によつて被申立人の財産が増加するからといつて、仮差押の目的を害しないとはいえない。

四、よつて申立人の申立を相当と認め、本件不動産に対する監守、保存のため必要な処分として、主文のとおり決定する。

(裁判官 菅野孝久)

第一目録

長岡市宝地町字金輪一九二番 固定資産税評価額(但し宅地評価)

一、田 五四二平方米(五畝一四歩)  金一八万五、九〇〇円

同所 一九三番

一、田 三五三平方米(三畝一七歩)  金一二万一、三〇〇円

第二目録

長岡市旭町一丁目二番五 固定資産評価額

一、宅地 一五一・二〇平方米(四五坪七合四勺) 金六〇万九、四〇〇円

長岡市上富岡町字松山一九六五番一

一、畑 二八四平方米(二畝二六歩)  金四、八〇〇円

同所 一九六五番二五

一、畑 四二平方米(一三歩)     金七〇〇円

長岡市西津町字前島二九八四番

一、田 九六八平方米(九畝二三歩) 金六万九、八〇〇円

同所 二九八五番

一、田 一五五平方米(一畝一七歩) 金九、七〇〇円

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